グラフと素数:Erdős-Evansの定理
からまでの整数から相異なる数を取り、「がと互いに素ならを結ぶ」という規則でたちを頂点とするグラフを作ってみましょう。例えばとしてを選ぶと下のようなグラフが得られます(小さい数字は)。
グラフをこのような方法で作ることができるとき、はで表現可能であると言います。
ではどんなグラフがで表現可能なのでしょうか。
例えばを大きな素数としてを選べば完全グラフを作ることができます。またとしてを選べば鎖状のグラフが得られます。
サイクルを作るのは少し難しいです。Twitterでこれを出題したところ、@rudjereverisさんからとてもエレガントな解法を寄せて頂いたのでここで紹介します(私の想定解は間違っていることに後で気づきました…)。
大きな整数をとってとします。すると考えている範囲で「と互いに素冪」としてよいことになります。このときをとると、これは長さのサイクルになっています。
さて、本題に入りましょう。実は次の驚くべき事実が成り立ちます!
証明のために補題を準備します。
証明. を固定し、条件を満たす個の素数からなる集合で、全ての要素が以上のものを帰納的に構成していく。の時は以上の素数を任意に取れば良い。の時、新たに加える素数が満たすべき条件は
それでは定理を示しましょう。
定理の証明. 表現したいグラフに1つの頂点を加え、その補グラフ(辺で結ばれているかどうかを全て反転したグラフ)をとする。の辺の数をとし、補題の条件を満たす個の素数からなる集合をとり、各辺に1つずつ素数を割り当てる。とし、の各頂点に対し「で自分に繋がっている辺に割り当てられた素数の積」を選べばよい。
如何でしたでしょうか。この証明は美しいですが、算術級数定理を使っているところが少し残念かもしれません。もっと初等的に示せた方がいましたら、ぜひ教えてください。
2^n+1を割り切る素数の密度は17/24
という数列を考えましょう。
これは全て奇数ですからの倍数は登場しません。の倍数は上の列に出てきていますね。しかしの倍数は見当たりません。実はこの列にはの倍数は現れないのです。これはが
と循環し、が現れないことからわかります。
では、の素因数に現れる素数は、素数全体のうちどのくらいあるのでしょうか?
実はHasseによる次の定理(1966)があります。
ここで密度とは、以下の素数の個数をを、その中で条件を満たす素数の個数をとするとき
のこと(いわゆる自然密度)とします。
17という数が出てくるところが面白いですね。
今回はこの定理の証明をしたいと思いますが、初等的な証明ではないので、代数的整数論の基本的な知識(円分体における素イデアルの分解など)を仮定します。これについては以下のtsujimotterさんのブログにわかりやすい解説があるので、あまり詳しくない方はそちらも参照してみてください。
さて、ある条件を満たす素数の密度を計算する方法はどんなものがあるでしょうか?
整数論に詳しい人なら、その一つとして真っ先にChebotarevの密度定理を挙げるでしょう。あるいはその特別な場合である次の定理が有名です。
証明は省略しますが、比較的簡単なので今後このブログで紹介するかもしれません。
Hasseによる証明では、素数がを割り切るという条件をある代数体における完全分解という条件に書き直すことで、命題1に帰着させるのです。まずはこの書き換えをしていきましょう。議論を簡単にするため、素数は奇素数のみ考えます(こうしても密度には影響しません)。
素数が条件を満たさない、つまりが解を持たないためには、におけるの位数が奇数であることが必要十分です。ここで次の補題を使います。
証明. (1)が解を持つならばだから、の位数はを割り切り、奇数である。逆にの位数が奇数ならば、原始根をとってとするとなのでとなり解が得られる。
よりにはの乗根が全てあるので、上の方程式が解を持つことは
と一次式の積に分解することと同値です。以上で次が得られました。
次にの部分を書き換えましょう。これは
と同値です。円分体における素イデアルの分解法則より、上の条件は
と言い換えられます(はの原始乗根)。ここで2つの上Galois拡大体の系列を
と定めます。一般に「合成体で完全分解で完全分解」であることに注意すれば、結局次が得られたことになります。
命題1と組み合わせることで次が得られます。
これで問題は拡大次数を求めることに帰着されました!
から求めていきましょう。のとき次、のとき次拡大であることは簡単にわかります。の場合、なので、を求めます。
と置きます。なので上の拡大はKummer拡大であり、Kummer理論より拡大次数はの位数に等しくなります。ここで*1よりのときなので、拡大次数はとわかりました。よって
同様にについてものとき次拡大であり、の時はKummer拡大の次数がなので
以上をまとめると次のようになります。
それでは密度を求めてみましょう。
ちゃんとが出てきましたね!これでHasseの定理の証明が完了しました。
実は私が最近読んだ論文の中に「Lucas数を割り切る素数の密度はである」という定理があって、その中に上の結果と証明が紹介されていたというのが今回の記事の経緯です。Lucas数の方の結果も同じように素イデアル分解の条件に書き直して密度定理を使うことで証明できるようです。
*1:がの非Abel拡大を含むことからわかります。
とある整数論の問題と、その鮮やかな解法
次の問題は1984年にハンガリーのとある数学コンテストで出題されたものです。
これはもともとPálfyという数学者が予想し、ErdősがSylvester-Shurの定理から従うことを指摘したという経緯があります。しかしこれを数学コンテストに出題したところ、Szegedyという学生が簡潔でself-containdな解法を発見しました。その後、彼ら3人はその解法を共著論文にまとめています。今回はそのエレガントな解法を紹介したいと思います。
以下をで割った余りをと書きます。
問題の解答. と仮定する。まずを十分大きくとることでがわかる。さらにをに変えても仮定は保たれるから、最初からとしてよい。
と置く。またをそれぞれの因子(掛けられている個の数)のうちで割れるものの個数とする。すると
ここでの因子はどちらも個の連続した自然数だからがわかる。さらにの因子を大きい方から順に見ていくと、問題の仮定よりの因子の方が先にで割れるからである。とくにならばである。ゆえに上の式は
となる。となる最大のをと置くと上の指数部分は
と評価できるから
変形すると
となる(両辺は整数になっている)。左辺分子の因子のうち約分されるものは高々個(は以下の素数の個数)なので
一方右辺分子の因子はちょうど個約分されるので
よって.これは最初に課した仮定に矛盾している。よってが示された。
まさに見事な証明と言うほかありません。この証明を部屋に飾って眺めていたいくらいです。 いつかこんな証明がしてみたいですね。
Fibonacci素数とF-完全数
完全数とは「自分自身以外の約数の総和が自分自身になる」ような正整数のことで、と続きます。
これの仲間として「自分自身以外の約数の2乗和が自分自身の3倍になる」ような正整数を「F-完全数」と呼ぶことにしましょう。最初の3つのF-完全数は
となります。
ところでこれらの数の約数を眺めていると不思議なことに気がつきます。そう、は全てFibonacci数になっているのです。
種明かしをすると、実は次の定理が成り立つのです(Cai-Chen-Zhang,2015)。
これを証明するためにLucas数について簡単な性質を確認しておきましょう。Lucas数とはFibonacci数の仲間で、で定義されます。一般項を求めると次のようにまとめられます(証明略)。
またFibonacci数との間には以下の関係があります。
これは帰納法により簡単に示すことができます。
それでは定理を示しましょう!
定理の証明. の約数が5個以上あったとし、小さい方から2つめ,3つめのものをとすると、相加相乗平均の不等式より
となり不適。逆に約数が3個以下でも明らかに不適。ゆえに約数はちょうど4個なので、または(は素数)と書ける。後者の場合約数の2乗和はとなるからでは不適で、でも成り立たない。よってとなる。
このとき満たすべき方程式はと変形できる。これはPell方程式だから解は
と書くことができる(Pell方程式については過去記事「奇跡の楕円曲線と144」内のリンクを参照)。補題と漸化式より
となるからと書ける。逆にこの形ならばF-完全数であることも上の式変形を逆にたどれば示される。
ちなみにF-完全数が無限に存在するかどうかは未解決問題です。というのも、そもそもFibonacci数に素数が無限個存在するかが未解決だからです。なんとか私が生きている間に解決されてほしいものです。
Fibonacci数の逆数和は無理数である
【注意】この記事には横に長い数式が多く含まれます。小さい端末では画面を横向きにすることを推奨します。
皆さん、Fibonacci数は好きですか?好きですよね。私も大好きです。
今回は21世紀に生きるフィボナッチ・フリークなら必ず一度は証明を読んでおきたい"あの"定理を示しましょう。
Fibonacci数の逆数の和
はReciprocal Fibonacci Constantと呼ばれ、その値はおよそ
となります。この数は無理数であることがAndré-Jeanninにより1989年に示されました。ここではDuverney(1997)(私が生まれた年!)により簡略化されたその証明を紹介したいと思います。
まず証明に必要な-指数・対数関数というものを定義します。
と定め、-指数関数と呼ぶ。また
と定め、-対数関数と呼ぶ。
これらは通常の指数・対数を定義する級数
の自然数の部分をというパラメータに置き換えたものになっています。このような置き換えは-類似と呼ばれています。
今回の証明の鍵となるのは次の性質です。
証明. まず
より
これを繰り返し用いて
を得る。対数を取り微分すると
一方で
を繰り返し用いると
を比較すれば命題の式を得る。
それでは主定理を証明しましょう。
証明. と置く。は-対数関数を使って
と書ける。これが有理数(は互いに素な整数)だったと仮定する。すると上の命題より
となる。の定義式に代入すると
ここで上の式の無限和をとに分割すると
分母を払えば
左辺の値をとし、右辺の無限和の中身をと置くと
と評価できる(はある正の定数)。ゆえにある正の定数があって
一方での共役無理数(をに置き換えたもの)をと置くと、なので、がに収束することに注意すれば
(はある正の定数)と評価できる。これらを合わせれば
ここでは定義より代数的整数なので上式左辺は整数であり、あるが存在してでなければならない。このとき(3)式の左辺もになる。として差分をとれば
となり、の無理性に反する。ゆえには無理数である。
ちなみにが超越数かどうかは未解決問題です(ぜひチャレンジしてみてください!)。一方でFibonacci数の逆数の2n乗和は超越数であることがわかっています。奇数乗和に関してわかっていることは少なく、ちょうどRiemannゼータ関数の特殊値のような状況になっています。これからどんな結果が出てくるか楽しみですね。
あるサイズの巡回置換だけで任意の置換を作る
任意の置換は互換の積に表すことができます。では同じように、3元の巡回置換(は相異なる)だけを組み合わせて任意の置換を作ることはできるでしょうか?
答えはNoです。(置換は右から合成する)と書けるので、3元の巡回置換は偶置換です。偶置換の積は偶置換なので、この方法では偶置換しか作ることができません。
しかし、実は3元の巡回置換を使えば全ての偶置換を作ることができます。すなわち、を次の対称群、を交代群とし、元の巡回置換で生成されるの部分群をとすると、次が成り立ちます。
証明. 交わる2つの互換の積は3元の巡回置換に他ならず、交わらない2つの互換の積はなので、2つの互換の積は必ずに入る。はこれらで生成されるからである。逆の包含は3元の巡回置換が偶置換であることから明らか。
実はより一般に次が成り立ちます。
証明. 命題1より、任意のについてを示せばよい(すると対称性から任意の3元の巡回置換を含む)。
よりであり、同様になのでとなる。
ではが偶数のときはどうなるでしょうか。
この場合、なんと任意の置換を作ることができます!以下の証明は箱(@o_ccah)さんから教えていただきました。
証明. とする。を示せばよい。
と置く。なので示された。
このように、あるタイプの置換で生成される置換の全体を求めることは、しばしば面白いパズルになります。皆さんも是非オリジナルの置換パズルを考えてみてください。
振り子の幾何学
振り子に勢いよく初速を与えると、跳ね上がって糸がたるむことがありますね。
このとき、「糸がたるみ始める地点」と「球が落下して糸がピンと張る地点」の間には綺麗な関係があります。実は鉛直上方向から角度を測ると、角度の比(図の)は必ずになるのです!(図は不正確ですがご容赦ください)
この現象には次のような数学的な背景があります。
この命題は円に対する方べきの定理の放物線における類似なので、俗に「放べきの定理」などと呼ばれています。
証明. 適当に線形変換(行列表示の右上成分がのもの)と平行移動をすることで、放物線が、、の場合に帰着できる。の座標をそれぞれとすると、これらはの解なので
となり成り立っている。
これを使うと、円と放物線の交点の性質が明らかになります。
証明. の差は無視されるので、図のような角の取り方のみで示せばよい。と軸のなす角をとする。の交点をとすると、通常の方べきの定理より
一方上の命題から
ゆえにがわかる。なので命題を得る。
さて、これがどう振り子と関係するのでしょうか。
振り子が跳ね上がる際、糸がたるみ始めるまでは球は円周上を動きます。糸がたるむと、球は重力によって放物線を描きます。たるむ瞬間に球に撃力が働くことはないので、運動方程式を考えれば、糸がたるむ直前と直後で位置・速度・加速度が一致しています。これはすなわちその点で円と放物線が3重に接していることを表しています。
そこで上の命題で3点が一点に近づく極限を考えれば、それはまさしく冒頭の図でとなることを表しています。
実際にこの現象が起きるのか気になった方は、ぜひ実験して確かめてみてください。