根心の存在が自明に思える図
を中心とする3円が互いに2点ずつ()で交わっている状況を考えます(下図)。このとき3本の直線は一点で交わります。これを3円の根心と言います。
さらっと書いてしまいましたが、本当に一点で交わるの?と疑問に思われる方も多いでしょう(私も初めて聞いたときは驚きました)。このことは方べきの定理を用いて示すことができます。証明は以下に詳しく書かれています。
しかし、実は根心の存在は直感的に明らかな形で理解する方法があります(厳密な証明には向きませんが)。
3つの三角形に着目します。
ここでこの図を3次元空間内のある平面に置かれたものと考え、それぞれの三角形をを軸に回転させると、下図のように三角錐を組み立てることができます。
回転させる過程を上から見れば、はそれぞれ直線上を動くので、出来上がる三角錐の頂点(を上から見た点)がちょうど根心になっています。
3次元に生きていて本当によかったですね。
奇跡の楕円曲線と144
私が最も好きな不定方程式の一つに、次のものがあります。
いわゆる楕円曲線の一種です。この方程式の整数解は全部でいくつあるでしょうか?
まず方程式の形からがわかります。順に試していけばすぐにという解が見つかります。ここから先はなかなか解が現れず、これで全てであるかのように思われます。
しかしこの方程式はそんなつまらないものではありません。実はこんな解もあるのです。
大きい解ですね。実際計算してみると
となり、確かに解になっています。一般にこのような大きな解がある不定方程式は手計算では解くことが難しいです。しかしこの方程式に限っては、実に鮮やかな方法でこの解を求めることができます。まさに奇跡の楕円曲線というわけです。
以下の方法は私が今年たまたま見つけたものですが(恐らくもっと昔から知られているとは思いますが)、発見した日の晩は興奮して眠れませんでした。
さて、準備としてPell方程式について復習しておきましょう。
証明は以下のサイトなどに丁寧にまとめられています。
それでは本題の証明に入りましょう。
証明. のみ考えればよい。と因数分解する。が平方数の場合、も平方数なのでとなる。平方数でない場合(は平方因子を持たない)とするとはを割り切るので、特にを割り切る。ゆえにのいずれかである。
の場合、で、は平方数とはなりえないので不適(はで平方元でない)。
の場合、もとの方程式に代入すれば
となる。右辺の素因数の数を考えればは奇数であり、また左辺は偶数なのでと書ける。このとき
なので不適(はで平方元でない)。
の場合、もとの方程式に代入すれば
ゆえには平方数でありと書くことができる。
なので補題(Pell方程式)よりあるが存在して
(ただし、はFibonacci数)となり、は偶数番目のFibonacci数かつ平方数である。Cohnの定理によれば、このような数はとしか存在しない。これについては以下の記事に詳しい証明がある。
よってまたはとなり、このときそれぞれが解を与える。
というわけで、という解はFibonacci平方数であるに由来していたのです。
ところではの二乗で、なおかつ番目のFibonacci数です。という数字は数学の至る所で重要な役割を果たしています。モジュラー形式のウェイトはですし、代数曲面論のNoetherの公式にはが含まれます。そしてそれらを繋ぐ組み合わせ論的な定理である点定理 というものも知られています。私は密かに、Fibonacci平方数144もこれらのと関係しているのでは、などと妄想しています。
石取りゲームとFibonacci数
2人で次のようなゲームをします。
石が個積まれている()。交互に1つ以上の石を取り去り、最後の石を取れば勝ちである。ただし次のルールを守らなければいけない。
(1) 先手は最初に全ての石をとってはいけない。
(2) 相手が直前に取った石の数の2倍より多く取ってはいけない。
さて、このゲームに必勝法はあるのでしょうか?
実は次のことが成り立ちます。
ここでFibonacci数とはで定義される数列です。これを示すには次の事実を用います。
たとえばなどです。
証明. の時は明らか。のときなる最大のをとると、帰納法の仮定よりは一意的なZeckendorf表示を持つ。最大性よりのZeckendorf表示には未満のFibonacci数のみ現れるので(そうでなければとなってしまう)、これとを合わせればのZeckendorf表示が得られる。
一意性を示すには、を使わなければならないことを示せばよい。未満のFibonacci数のみを用いて表示できる最大の整数はだが、これは漸化式より以下であり、これらでを表すことはできない(最後の式は帰納法で簡単に示せる)。
さて、Zeckendorf表示を使って上のゲームの必勝法を作ってみましょう。基本的なアイディアは「残りの石の数をZeckendorf表示したとき現れる最小のFibonacci数を取り除く」ことです。
命題の証明. 「のZeckendorf表示に現れる最小のFibonacci数」をと書くことにする。
がFibonacci数でなければ、先手は個だけ取る。するとZeckendorf表示の性質より残りの数は
をみたす。このときFibonacci数の漸化式よりなので後手は個以上の石を取ることができず、したがって全ての石を取ることはできない、これを繰り返せば勝てるので、後手が次に取る個数に関わらず繰り返せることを示そう。
後手が個取ったとし、残りの石の数がを満たすと仮定して矛盾を導く。より真に大きい最小のFibonacci数をとすると、仮定より特に
なので
一方で後手が操作する前には
だったのでの最小性から
等号が成立するときは
で、括弧内のZeckendorf表示が以下のFibonacci数を持つので仮定と矛盾。成立しないときは(1)と(2)を比較すればとなり矛盾する(一般にがFibonacci数の時であることに注意せよ)。これで先手必勝がわかった。
がFibonacci数だったとする。先手の操作後にまたFibonacci数が残ると後手が勝つ。なぜなら先手が取る石の数はであり、後手は個の石をすべて取れるからである。そうでない場合、先ほどの議論を後手に適用することでやはり後手が勝てることがわかる.
こんな単純なゲームにFibonacci数が現れるのは面白いですね。
バーゼル問題の二重対数による解法
バーゼル問題とはの値()を求める問題で、当ブログでは以前Calabiによる短い証明を紹介しました。
fibonacci-freak.hatenablog.com
今回はこのバーゼル問題の、二重対数関数(Dilogarithm)という不思議な関数を使った解法を紹介します。
二重対数関数とはで収束する級数
で定義される関数です。今回求めたい級数はと書くことができます(厳密にはの極限)。よく知られたの級数展開
が得られます。被積分関数はを除いて一価正則に定義できるので、その領域内での線積分によって逆にを定めれば定義域をに延長(解析接続)して考えることができます。以下この延長を考えます。
さて、この関数の性質を見ていきましょう。
証明. 級数表示より これを移項すればよい。
証明. 左辺を微分すると
これは右辺の微分に等しいから両辺の差は定数である。の極限を考えると両辺ともに となるので一致することがわかる。
いよいよ本題のバーゼル問題です。
証明. 命題2においてから近づくようにの極限をとると
これと命題1を合わせれば
解析接続して函数等式を利用するという手法の強力さがわかる、見事な証明ですね。
完全有向グラフはハミルトンパスを持つ
頂点の完全グラフの各辺に向きが与えられたものを頂点の完全有向グラフといいます。例えば下の図のようなものです。
実は完全有向グラフには必ずハミルトンパスが存在します。ハミルトンパスとは全ての頂点を1回ずつ通る道のことです(閉路でなくても構いません)。
頂点からへの有向辺が存在することをと表すことにします。
証明. 頂点数についての帰納法で示す。のときは明らか。の場合、頂点を任意に1つとりとする。(を除いた部分グラフ)には帰納法の仮定によりハミルトンパスが存在する。またはならばそれを道の端に追加することでハミルトンパスを得る。そうでない場合かつなので、かつなるが存在する(下図)。この時なるハミルトンパスが取れる。
ところで、完全有向グラフの頂点があるハミルトンパスの始点になるための条件は簡単にわかるのでしょうか?これと似た条件として次のような概念を考えてみましょう。
例えば下の図で左下の頂点は基点です。
基点であることは見かけ上「ハミルトンパスの始点」より弱い条件ですが、実は次が成り立ちます。
証明. ハミルトンパスの始点ならば基点であることは明らかなので逆を示す。頂点数についての帰納法による。の場合は明らか。の場合、なる頂点全体のなす部分グラフをとし、の基点を取る。これはの基点でもある。実際に対しからの最短のハミルトンパスを取れば、からへの(内の)道とからへの道を連結することでからへの道が得られる(下図)。よって帰納法の仮定よりを始点とするのハミルトンパスが存在するので、この先頭にを連結すればよい。
パズルのようで面白いですね。
最後に一つ問題を出したいと思います。解答はここには書きませんので、ぜひ自分で考えてみてください。
立方体の"あの角度"
立方体において、の大きさが何度になるか知っていますか?
に着目して逆三角関数を使えば、この角度はと表すことができます。これは果たして有理数度(弧度法で(有理数))になるのでしょうか?
実は、より一般に次のことが示せます。しかも高校数学のみで!
証明. 十分性はより良い。となるとき、正整数が存在してとなる。さらにこれは
と言い換えられる。であり、がを満たすことからは漸化式
を満たす。が偶数のときは で考えれば、に対し
なので。のときも同様に
であり、で考えればこれがになるのはのときに限られる。
のときはと定めるとで
を満たすので、で考えればに対し
であり、これがになるのはのときに限られる。
同様の手法でとなる正整数がに限られることなども示せます。