バーゼル問題の二重対数による解法
バーゼル問題とはの値()を求める問題で、当ブログでは以前Calabiによる短い証明を紹介しました。
fibonacci-freak.hatenablog.com
今回はこのバーゼル問題の、二重対数関数(Dilogarithm)という不思議な関数を使った解法を紹介します。
二重対数関数とはで収束する級数
で定義される関数です。今回求めたい級数はと書くことができます(厳密にはの極限)。よく知られたの級数展開
が得られます。被積分関数はを除いて一価正則に定義できるので、その領域内での線積分によって逆にを定めれば定義域をに延長(解析接続)して考えることができます。以下この延長を考えます。
さて、この関数の性質を見ていきましょう。
証明. 級数表示より これを移項すればよい。
証明. 左辺を微分すると
これは右辺の微分に等しいから両辺の差は定数である。の極限を考えると両辺ともに となるので一致することがわかる。
いよいよ本題のバーゼル問題です。
証明. 命題2においてから近づくようにの極限をとると
これと命題1を合わせれば
解析接続して函数等式を利用するという手法の強力さがわかる、見事な証明ですね。
完全有向グラフはハミルトンパスを持つ
頂点の完全グラフの各辺に向きが与えられたものを頂点の完全有向グラフといいます。例えば下の図のようなものです。
実は完全有向グラフには必ずハミルトンパスが存在します。ハミルトンパスとは全ての頂点を1回ずつ通る道のことです(閉路でなくても構いません)。
頂点からへの有向辺が存在することをと表すことにします。
証明. 頂点数についての帰納法で示す。のときは明らか。の場合、頂点を任意に1つとりとする。(を除いた部分グラフ)には帰納法の仮定によりハミルトンパスが存在する。またはならばそれを道の端に追加することでハミルトンパスを得る。そうでない場合かつなので、かつなるが存在する(下図)。この時なるハミルトンパスが取れる。
ところで、完全有向グラフの頂点があるハミルトンパスの始点になるための条件は簡単にわかるのでしょうか?これと似た条件として次のような概念を考えてみましょう。
例えば下の図で左下の頂点は基点です。
基点であることは見かけ上「ハミルトンパスの始点」より弱い条件ですが、実は次が成り立ちます。
証明. ハミルトンパスの始点ならば基点であることは明らかなので逆を示す。頂点数についての帰納法による。の場合は明らか。の場合、なる頂点全体のなす部分グラフをとし、の基点を取る。これはの基点でもある。実際に対しからの最短のハミルトンパスを取れば、からへの(内の)道とからへの道を連結することでからへの道が得られる(下図)。よって帰納法の仮定よりを始点とするのハミルトンパスが存在するので、この先頭にを連結すればよい。
パズルのようで面白いですね。
最後に一つ問題を出したいと思います。解答はここには書きませんので、ぜひ自分で考えてみてください。
立方体の"あの角度"
立方体において、の大きさが何度になるか知っていますか?
に着目して逆三角関数を使えば、この角度はと表すことができます。これは果たして有理数度(弧度法で(有理数))になるのでしょうか?
実は、より一般に次のことが示せます。しかも高校数学のみで!
証明. 十分性はより良い。となるとき、正整数が存在してとなる。さらにこれは
と言い換えられる。であり、がを満たすことからは漸化式
を満たす。が偶数のときは で考えれば、に対し
なので。のときも同様に
であり、で考えればこれがになるのはのときに限られる。
のときはと定めるとで
を満たすので、で考えればに対し
であり、これがになるのはのときに限られる。
同様の手法でとなる正整数がに限られることなども示せます。
バーゼル問題の短い証明
バーゼル問題とは、平方数の逆数の和
の値を求めよという問題で、1735年にEulerによってこれがであることが示されました。現在では多種多様な証明が知られていますが、今回はE.Calabiによる短く巧妙な証明を紹介します。
積分を2通りの方法で計算します。まず被積分関数を等比数列の和と見て項別積分すると
となり、この値は
に等しいことがわかります。一方でと置換するとこれは三角形領域
上の積分となり、Jacobianは
となります(!)よって積分の値は
で、先ほどの計算と合わせれば
が得られます。
私もこんな巧みな変数変換を思いついてみたいものです。
置換の下降数と減少数
置換には興味深い性質がたくさんあります。ここではその一つを紹介します。
上の置換の全体をと書きます。に対し、その下降数をなるの総数と定めます。例えばという置換にはとの2箇所に「下降」があるため、下降数はです。
また、置換の減少数をなるの総数と定めます。上の例では減少数は1です。実はこれらには次の関係があります。
この定理は、下降数がの置換と減少数がの置換の間に1対1の対応を与えることで証明できます。証明の鍵となるのは次の性質です。
このことは置換でそれぞれの数がどこに移るかを追跡することでわかります。例えば上に挙げた例なら、はに、はに、はに、はに移るため、ここにという巡回置換があります。は動かないので元の巡回置換と見なせば
と表せます。
それでは定理を証明してみましょう。
定理の証明. 以下のように写像を定める。を
と交わらない巡回置換の積に書く。この書き方には任意性があるが、かつ(各巡回置換に含まれる最小元が最も右側にあり、それらは小さい順に並んでいる)という条件を付けると唯一通りに定まる。このときを
と定める。これは全単射である。実際、置換の表示を左から見てが現れる所までを括弧で括り、次にそれより右側の最小元が現れる所までを括弧で括り…と繰り返すことで逆写像が構成できる。
あとはが減少数の置換を下降数の置換に移すことを見ればよい。の減少数は定義からなる組の総数に等しい。ここで作り方から常になので巡回置換の端どうしは考えなくてよいことに注意する。さらに常になので、この総数はの下降数に等しい。
の元のうち下降数がであるものの個数はEuler数と呼ばれており、様々な性質が知られています。それについてはまた改めて記事を書こうと思います。
このブログについて
はじめまして。飛鳥といいます。
このブログでは、「明日誰かに話したくなる数学の小ネタ」の数々を紹介していきたいと思っています。小ネタなので一つ一つの記事は短めですが、証明はきちんとつけるつもりです。
ブログ名は私が大好きな数列、Fibonacci数からとりました。Fibonacci数についての記事も沢山書きたいと思います。
またこのブログの記事は全て無断でリンクを貼っていただいて構いません。
楽しんでいただけたら幸いです。