フィボナッチ・フリーク

数学の小ネタ集。

Fibonacci Freak

完全有向グラフはハミルトンパスを持つ

n頂点の完全グラフ(n\geq 2)の各辺に向きが与えられたものをn頂点の完全有向グラフといいます。例えば下の図のようなものです。

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実は完全有向グラフには必ずハミルトンパスが存在します。ハミルトンパスとは全ての頂点を1回ずつ通る道のことです(閉路でなくても構いません)。

頂点AからBへの有向辺が存在することをA\to Bと表すことにします。

定理. 任意の完全有向グラフGにはハミルトンパスが存在する。

証明. 頂点数nについての帰納法で示す。n=2のときは明らか。n\gt 2の場合、頂点を任意に1つとりVとする。G-V(Vを除いた部分グラフ)には帰納法の仮定によりハミルトンパスA_1\to A_2\to\cdots\to A_{n-1}が存在する。V\to A_1またはA_{n-1}\to Vならばそれを道の端に追加することでハミルトンパスを得る。そうでない場合A_1\to VかつV\to A_{n-1}なので、A_i\to VかつV\to A_{i+1}なるi\lt nが存在する(下図)。この時A_1\to\cdots\to A_i\to V\to A_{i+1}\to \cdots\to A_{n-1}なるハミルトンパスが取れる。\square

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ところで、完全有向グラフの頂点があるハミルトンパスの始点になるための条件は簡単にわかるのでしょうか?これと似た条件として次のような概念を考えてみましょう。

定義. 完全有向グラフの頂点V基点であるとは、Vから任意の他の頂点への道が存在することを指す。先ほどの定理より、基点は必ず存在する。

例えば下の図で左下の頂点は基点です。

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基点であることは見かけ上「ハミルトンパスの始点」より弱い条件ですが、実は次が成り立ちます。

定理. 完全有向グラフGの頂点Vがあるハミルトンパスの始点になることと基点であることは同値である。

証明. ハミルトンパスの始点ならば基点であることは明らかなので逆を示す。頂点数nについての帰納法による。n=2の場合は明らか。n\gt 2の場合、V\to Aなる頂点A全体のなす部分グラフをSとし、Sの基点V'を取る。これはG-Vの基点でもある。実際W\in G-Vに対しVからの最短のハミルトンパスV\to A\to\cdots\to Wを取れば、V'からAへの(S内の)道とAからWへの道を連結することでV'からWへの道が得られる(下図)。よって帰納法の仮定よりV'を始点とするG-Vのハミルトンパスが存在するので、この先頭にV\to V'を連結すればよい。\square

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パズルのようで面白いですね。

最後に一つ問題を出したいと思います。解答はここには書きませんので、ぜひ自分で考えてみてください。

問題. 完全有向グラフに含まれる基点の総数は、ちょうど2にはならないことを示せ。