Fibonacci数の逆数和は無理数である
【注意】この記事には横に長い数式が多く含まれます。小さい端末では画面を横向きにすることを推奨します。
皆さん、Fibonacci数は好きですか?好きですよね。私も大好きです。
今回は21世紀に生きるフィボナッチ・フリークなら必ず一度は証明を読んでおきたい"あの"定理を示しましょう。
Fibonacci数の逆数の和
はReciprocal Fibonacci Constantと呼ばれ、その値はおよそ
となります。この数は無理数であることがAndré-Jeanninにより1989年に示されました。ここではDuverney(1997)(私が生まれた年!)により簡略化されたその証明を紹介したいと思います。
まず証明に必要な-指数・対数関数というものを定義します。
と定め、-指数関数と呼ぶ。また
と定め、-対数関数と呼ぶ。
これらは通常の指数・対数を定義する級数
の自然数の部分をというパラメータに置き換えたものになっています。このような置き換えは-類似と呼ばれています。
今回の証明の鍵となるのは次の性質です。
証明. まず
より
これを繰り返し用いて
を得る。対数を取り微分すると
一方で
を繰り返し用いると
を比較すれば命題の式を得る。
それでは主定理を証明しましょう。
証明. と置く。は-対数関数を使って
と書ける。これが有理数(は互いに素な整数)だったと仮定する。すると上の命題より
となる。の定義式に代入すると
ここで上の式の無限和をとに分割すると
分母を払えば
左辺の値をとし、右辺の無限和の中身をと置くと
と評価できる(はある正の定数)。ゆえにある正の定数があって
一方での共役無理数(をに置き換えたもの)をと置くと、なので、がに収束することに注意すれば
(はある正の定数)と評価できる。これらを合わせれば
ここでは定義より代数的整数なので上式左辺は整数であり、あるが存在してでなければならない。このとき(3)式の左辺もになる。として差分をとれば
となり、の無理性に反する。ゆえには無理数である。
ちなみにが超越数かどうかは未解決問題です(ぜひチャレンジしてみてください!)。一方でFibonacci数の逆数の2n乗和は超越数であることがわかっています。奇数乗和に関してわかっていることは少なく、ちょうどRiemannゼータ関数の特殊値のような状況になっています。これからどんな結果が出てくるか楽しみですね。
あるサイズの巡回置換だけで任意の置換を作る
任意の置換は互換の積に表すことができます。では同じように、3元の巡回置換(は相異なる)だけを組み合わせて任意の置換を作ることはできるでしょうか?
答えはNoです。(置換は右から合成する)と書けるので、3元の巡回置換は偶置換です。偶置換の積は偶置換なので、この方法では偶置換しか作ることができません。
しかし、実は3元の巡回置換を使えば全ての偶置換を作ることができます。すなわち、を次の対称群、を交代群とし、元の巡回置換で生成されるの部分群をとすると、次が成り立ちます。
証明. 交わる2つの互換の積は3元の巡回置換に他ならず、交わらない2つの互換の積はなので、2つの互換の積は必ずに入る。はこれらで生成されるからである。逆の包含は3元の巡回置換が偶置換であることから明らか。
実はより一般に次が成り立ちます。
証明. 命題1より、任意のについてを示せばよい(すると対称性から任意の3元の巡回置換を含む)。
よりであり、同様になのでとなる。
ではが偶数のときはどうなるでしょうか。
この場合、なんと任意の置換を作ることができます!以下の証明は箱(@o_ccah)さんから教えていただきました。
証明. とする。を示せばよい。
と置く。なので示された。
このように、あるタイプの置換で生成される置換の全体を求めることは、しばしば面白いパズルになります。皆さんも是非オリジナルの置換パズルを考えてみてください。
振り子の幾何学
振り子に勢いよく初速を与えると、跳ね上がって糸がたるむことがありますね。
このとき、「糸がたるみ始める地点」と「球が落下して糸がピンと張る地点」の間には綺麗な関係があります。実は鉛直上方向から角度を測ると、角度の比(図の)は必ずになるのです!(図は不正確ですがご容赦ください)
この現象には次のような数学的な背景があります。
この命題は円に対する方べきの定理の放物線における類似なので、俗に「放べきの定理」などと呼ばれています。
証明. 適当に線形変換(行列表示の右上成分がのもの)と平行移動をすることで、放物線が、、の場合に帰着できる。の座標をそれぞれとすると、これらはの解なので
となり成り立っている。
これを使うと、円と放物線の交点の性質が明らかになります。
証明. の差は無視されるので、図のような角の取り方のみで示せばよい。と軸のなす角をとする。の交点をとすると、通常の方べきの定理より
一方上の命題から
ゆえにがわかる。なので命題を得る。
さて、これがどう振り子と関係するのでしょうか。
振り子が跳ね上がる際、糸がたるみ始めるまでは球は円周上を動きます。糸がたるむと、球は重力によって放物線を描きます。たるむ瞬間に球に撃力が働くことはないので、運動方程式を考えれば、糸がたるむ直前と直後で位置・速度・加速度が一致しています。これはすなわちその点で円と放物線が3重に接していることを表しています。
そこで上の命題で3点が一点に近づく極限を考えれば、それはまさしく冒頭の図でとなることを表しています。
実際にこの現象が起きるのか気になった方は、ぜひ実験して確かめてみてください。
根心の存在が自明に思える図
を中心とする3円が互いに2点ずつ()で交わっている状況を考えます(下図)。このとき3本の直線は一点で交わります。これを3円の根心と言います。
さらっと書いてしまいましたが、本当に一点で交わるの?と疑問に思われる方も多いでしょう(私も初めて聞いたときは驚きました)。このことは方べきの定理を用いて示すことができます。証明は以下に詳しく書かれています。
しかし、実は根心の存在は直感的に明らかな形で理解する方法があります(厳密な証明には向きませんが)。
3つの三角形に着目します。
ここでこの図を3次元空間内のある平面に置かれたものと考え、それぞれの三角形をを軸に回転させると、下図のように三角錐を組み立てることができます。
回転させる過程を上から見れば、はそれぞれ直線上を動くので、出来上がる三角錐の頂点(を上から見た点)がちょうど根心になっています。
3次元に生きていて本当によかったですね。
奇跡の楕円曲線と144
私が最も好きな不定方程式の一つに、次のものがあります。
いわゆる楕円曲線の一種です。この方程式の整数解は全部でいくつあるでしょうか?
まず方程式の形からがわかります。順に試していけばすぐにという解が見つかります。ここから先はなかなか解が現れず、これで全てであるかのように思われます。
しかしこの方程式はそんなつまらないものではありません。実はこんな解もあるのです。
大きい解ですね。実際計算してみると
となり、確かに解になっています。一般にこのような大きな解がある不定方程式は手計算では解くことが難しいです。しかしこの方程式に限っては、実に鮮やかな方法でこの解を求めることができます。まさに奇跡の楕円曲線というわけです。
以下の方法は私が今年たまたま見つけたものですが(恐らくもっと昔から知られているとは思いますが)、発見した日の晩は興奮して眠れませんでした。
さて、準備としてPell方程式について復習しておきましょう。
証明は以下のサイトなどに丁寧にまとめられています。
それでは本題の証明に入りましょう。
証明. のみ考えればよい。と因数分解する。が平方数の場合、も平方数なのでとなる。平方数でない場合(は平方因子を持たない)とするとはを割り切るので、特にを割り切る。ゆえにのいずれかである。
の場合、で、は平方数とはなりえないので不適(はで平方元でない)。
の場合、もとの方程式に代入すれば
となる。右辺の素因数の数を考えればは奇数であり、また左辺は偶数なのでと書ける。このとき
なので不適(はで平方元でない)。
の場合、もとの方程式に代入すれば
ゆえには平方数でありと書くことができる。
なので補題(Pell方程式)よりあるが存在して
(ただし、はFibonacci数)となり、は偶数番目のFibonacci数かつ平方数である。Cohnの定理によれば、このような数はとしか存在しない。これについては以下の記事に詳しい証明がある。
よってまたはとなり、このときそれぞれが解を与える。
というわけで、という解はFibonacci平方数であるに由来していたのです。
ところではの二乗で、なおかつ番目のFibonacci数です。という数字は数学の至る所で重要な役割を果たしています。モジュラー形式のウェイトはですし、代数曲面論のNoetherの公式にはが含まれます。そしてそれらを繋ぐ組み合わせ論的な定理である点定理 というものも知られています。私は密かに、Fibonacci平方数144もこれらのと関係しているのでは、などと妄想しています。
石取りゲームとFibonacci数
2人で次のようなゲームをします。
石が個積まれている()。交互に1つ以上の石を取り去り、最後の石を取れば勝ちである。ただし次のルールを守らなければいけない。
(1) 先手は最初に全ての石をとってはいけない。
(2) 相手が直前に取った石の数の2倍より多く取ってはいけない。
さて、このゲームに必勝法はあるのでしょうか?
実は次のことが成り立ちます。
ここでFibonacci数とはで定義される数列です。これを示すには次の事実を用います。
たとえばなどです。
証明. の時は明らか。のときなる最大のをとると、帰納法の仮定よりは一意的なZeckendorf表示を持つ。最大性よりのZeckendorf表示には未満のFibonacci数のみ現れるので(そうでなければとなってしまう)、これとを合わせればのZeckendorf表示が得られる。
一意性を示すには、を使わなければならないことを示せばよい。未満のFibonacci数のみを用いて表示できる最大の整数はだが、これは漸化式より以下であり、これらでを表すことはできない(最後の式は帰納法で簡単に示せる)。
さて、Zeckendorf表示を使って上のゲームの必勝法を作ってみましょう。基本的なアイディアは「残りの石の数をZeckendorf表示したとき現れる最小のFibonacci数を取り除く」ことです。
命題の証明. 「のZeckendorf表示に現れる最小のFibonacci数」をと書くことにする。
がFibonacci数でなければ、先手は個だけ取る。するとZeckendorf表示の性質より残りの数は
をみたす。このときFibonacci数の漸化式よりなので後手は個以上の石を取ることができず、したがって全ての石を取ることはできない、これを繰り返せば勝てるので、後手が次に取る個数に関わらず繰り返せることを示そう。
後手が個取ったとし、残りの石の数がを満たすと仮定して矛盾を導く。より真に大きい最小のFibonacci数をとすると、仮定より特に
なので
一方で後手が操作する前には
だったのでの最小性から
等号が成立するときは
で、括弧内のZeckendorf表示が以下のFibonacci数を持つので仮定と矛盾。成立しないときは(1)と(2)を比較すればとなり矛盾する(一般にがFibonacci数の時であることに注意せよ)。これで先手必勝がわかった。
がFibonacci数だったとする。先手の操作後にまたFibonacci数が残ると後手が勝つ。なぜなら先手が取る石の数はであり、後手は個の石をすべて取れるからである。そうでない場合、先ほどの議論を後手に適用することでやはり後手が勝てることがわかる.
こんな単純なゲームにFibonacci数が現れるのは面白いですね。
バーゼル問題の二重対数による解法
バーゼル問題とはの値()を求める問題で、当ブログでは以前Calabiによる短い証明を紹介しました。
fibonacci-freak.hatenablog.com
今回はこのバーゼル問題の、二重対数関数(Dilogarithm)という不思議な関数を使った解法を紹介します。
二重対数関数とはで収束する級数
で定義される関数です。今回求めたい級数はと書くことができます(厳密にはの極限)。よく知られたの級数展開
が得られます。被積分関数はを除いて一価正則に定義できるので、その領域内での線積分によって逆にを定めれば定義域をに延長(解析接続)して考えることができます。以下この延長を考えます。
さて、この関数の性質を見ていきましょう。
証明. 級数表示より これを移項すればよい。
証明. 左辺を微分すると
これは右辺の微分に等しいから両辺の差は定数である。の極限を考えると両辺ともに となるので一致することがわかる。
いよいよ本題のバーゼル問題です。
証明. 命題2においてから近づくようにの極限をとると
これと命題1を合わせれば
解析接続して函数等式を利用するという手法の強力さがわかる、見事な証明ですね。