フィボナッチ・フリーク

数学の小ネタ集。

Fibonacci Freak

Fibonacci数を隠し持つ積分

次の定積分の値は何になるでしょうか?

\displaystyle{I=\int_0^1 \log(1 + 4\cos^2 \pi x) dx}


実はこの積分はFibonacci数と深い関係があります。
被積分関数x = 1/2を挟んで対称なので

\displaystyle{I=2\int_0^{1/2}\log(1 + 4\cos^2\pi x) dx\\= \int_0^1\log\left(1+4\cos^2\dfrac{\pi x}{2}\right)dx\\=\lim_{n\to\infty}\dfrac{1}{n}\sum_{k=1}^{n-1}\log\left(1+4\cos^2\frac{k\pi}{2n}\right)\\=\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}\log\left(\prod_{k=1}^{n-1}\left(1+4\cos^2\frac{k\pi}{2n}\right)\right).}


ここで\logの中身の積の部分に注目します。これは実はFibonacci数になっています(!)Fibonacci数とは

F_1=F_2=1, F_{n+2}=F_{n+1}+F_n


で定義される数列でした。\zeta_n = \exp\left(\dfrac{2\pi i}{n}\right), \phi=\dfrac{1+\sqrt5}{2},\bar\phi=\dfrac{1-\sqrt5}{2} と置きます。 \phi,\bar\phix^2=x+1の2解なので

\phi^2+\bar\phi^2=3\\ \phi^2- \bar\phi^2=\sqrt5\\ \phi\bar\phi=-1


などがわかります。またFibonacci数の一般項は

F_n=\dfrac{\phi^n-\bar\phi^n}{\sqrt5}


と書くことができます。
さて、半角公式を使うと先ほどの積の部分は

\displaystyle{\prod_{k=1}^{n-1}\left(3+2\cos\frac{k\pi}{n}\right)\\ =\prod_{k=1}^{n-1}\left(\phi^2+\bar\phi^2-2\phi\bar\phi\cos\frac{k\pi}{n}\right)\\ =\frac{\phi^2-\bar\phi^2}{\sqrt5}\prod_{k=1}^{n-1}(\phi-\zeta_{2n}^k\bar\phi)(\phi-\zeta_{2n}^{-k}\bar\phi)\\ =\frac{1}{\sqrt 5}\prod_{k=0}^{2n-1}(\phi-\zeta_{2n}^k\bar\phi)\\ =\frac{\phi^{2n}-\bar\phi^{2n}}{\sqrt 5}=F_{2n}}


となり、確かにFibonacci数が出てきました!
よって最初の積分の値は

\displaystyle{I=\lim_{n\to\infty}\frac{\log F_{2n}}{n}\\=\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}\left(\log \phi^{2n}-\log\sqrt5+\log\left(1-\frac{1}{\phi^{4n}}\right)\right)\\ =2\log\phi}


と求まります。

なお、この方法はより一般に\log(a+b\cos x)型の積分にも応用できます。ぜひ考えてみてください。

立方体の"あの角度"

立方体ABCD-EFGHにおいて、\angle{AGF}の大きさが何度になるか知っていますか?

f:id:fibonacci_freak:20170710153900p:plain

\triangle{AGF}に着目して逆三角関数を使えば、この角度は\arctan \sqrt 2と表すことができます。これは果たして有理数度(弧度法で(有理数\times \pi)になるのでしょうか?

実は、より一般に次のことが示せます。しかも高校数学のみで!

定理. \arctan\sqrt n\in\mathbb{Q}\piとなる正整数n1,3のみである。特に\arctan\sqrt 2\not\in\mathbb{Q}\pi.

証明. 十分性は\arctan 1=\dfrac{\pi}{4},~\arctan \sqrt{3}=\dfrac{\pi}{3}より良い。\arctan\sqrt n=\arg(1+\sqrt{-n})\in\mathbb{Q}\piとなるとき、正整数mが存在して(1+\sqrt{-n})^m\in \mathbb{R}となる。さらにこれは

\displaystyle{ A_m:=\frac{(1+\sqrt{-n})^m-(1-\sqrt{-n})^m}{2\sqrt{-n}}=0 }

と言い換えられる。A_0=0,~A_1=1であり、x=1\pm\sqrt{-n}x^2-2x+n+1=0を満たすことからA_mは漸化式

A_{m+2}=2A_{m+1}-(n+1)A_m

を満たす。nが偶数のときは \mathrm{mod}~(n+1)で考えれば、m\geq 1に対し

A_m\equiv 2^{m-1}\not\equiv 0\mod (n+1)

なのでA_m\neq 0n\equiv 1~\mathrm{mod}~ 4のときも同様に

A_m\equiv 2^{m-1}\mod (n+1)

であり、\mathrm{mod}~4で考えればこれが0になるのはm=2,~n=1のときに限られる。
n\equiv 3~\mathrm{mod}~ 4のときはB_m=\dfrac{A_m}{2^{m-1}}と定めるとB_0=0,~B_1=1

B_{m+2}=B_{m+1}-\dfrac{n+1}{4}B_m

を満たすので、\mathrm{mod}~\dfrac{n+1}{4}で考えればm\geq 1に対し

B_m\equiv 1\mod \dfrac{n+1}{4}

であり、これが0になるのはn=3のときに限られる。\square

同様の手法で\arctan n\in\mathbb{Q}\piとなる正整数n1に限られることなども示せます。

バーゼル問題の短い証明

バーゼル問題とは、平方数の逆数の和

\displaystyle{\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2}}

値を求めよという問題で、1735年にEulerによってこれが\dfrac{\pi^2}{6}であることが示されました。現在では多種多様な証明が知られていますが、今回はE.Calabiによる短く巧妙な証明を紹介します。

積分\displaystyle{\int_0^1\int_0^1\frac{1}{1-x^2y^2}dxdy}を2通りの方法で計算します。まず被積分関数等比数列の和1+x^2y^2+x^4y^4+\cdotsと見て項別積分すると

\displaystyle{\sum_{n=0}^{\infty}\int_0^1\int_0^1 x^{2n}y^{2n}dxdy=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{(2n+1)^2}}

となり、この値は

\displaystyle{\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{n^2}-\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{(2n)^2}=\frac{3}{4}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{n^2}}

に等しいことがわかります。一方でx=\dfrac{\sin t}{\cos u}, y=\dfrac{\sin u}{\cos t}と置換するとこれは三角形領域

D=\{(t,u)\in\left[0,\dfrac{\pi}{2}\right]^2\mid t+u\leq \dfrac{\pi}{2}\}

上の積分となり、Jacobianは

\[\begin{vmatrix}\dfrac{\partial x}{\partial t}&\dfrac{\partial x}{\partial u}\\ \dfrac{\partial y}{\partial t}&\dfrac{\partial y}{\partial u}\\ \end{vmatrix}=\begin{vmatrix} \dfrac{\cos t}{\cos u}&-\dfrac{\sin t\sin u}{\cos^2 u}\\ -\dfrac{\sin t\sin u}{\cos^2 t}&\dfrac{\cos u}{\cos t}\\ \end{vmatrix}=1-x^2y^2 \]

となります(!)よって積分の値は

\displaystyle{\int_D dtdu=\frac{\pi^2}{8}}

で、先ほどの計算と合わせれば

\displaystyle{\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2}=\frac{\pi^2}{6}}

が得られます。

私もこんな巧みな変数変換を思いついてみたいものです。

置換の下降数と減少数

置換には興味深い性質がたくさんあります。ここではその一つを紹介します。

\{1,2,\cdots,n\}上の置換の全体をS_nと書きます。\sigma\in S_nに対し、その下降数\sigma(i)\gt\sigma(i+1)なるiの総数(1\leq i\leq n-1)と定めます。例えば\sigma=\begin{pmatrix} 1~2~3~4~5\\2~4~3~5~1\end{pmatrix}という置換には4\gt 35\gt 1の2箇所に「下降」があるため、下降数は2です。

また、置換\sigma減少数\sigma(i)\lt iなるiの総数(1\leq i \leq n)と定めます。上の例では減少数は1です。実はこれらには次の関係があります。

定理. 1\leq k \leq n-1とする。S_nの元のうち下降数がkのものと減少数がkのものの個数は等しい。

この定理は、下降数がkの置換と減少数がkの置換の間に1対1の対応を与えることで証明できます。証明の鍵となるのは次の性質です。

命題. 任意の置換はいくつかの交わらない巡回置換の積にただ一通りに表せる。

このことは置換でそれぞれの数がどこに移るかを追跡することでわかります。例えば上に挙げた例\sigma=\begin{pmatrix} 1~2~3~4~5\\2~4~3~5~1\end{pmatrix}なら、12に、24に、45に、51に移るため、ここに(1245)という巡回置換があります。3は動かないので1元の巡回置換と見なせば

\sigma=(1245)(3)

と表せます。
それでは定理を証明してみましょう。

定理の証明. 以下のように写像f:S_n\to S_nを定める。\sigma\in S_n

\sigma=(a_1^{(1)}a_2^{(1)}\cdots a_{l_1}^{(1)})(a_1^{(2)}a_2^{(2)}\cdots a_{l_2}^{(2)})\cdots(a_1^{(m)}a_2^{(m)}\cdots a_{l_m}^{(m)})

と交わらない巡回置換の積に書く。この書き方には任意性があるが、a_{l_j}^{(j)}=\underset{i}{\mathop{\rm min}}\{a_i^{(j)}\}かつa_{l_1}^{(1)}\lt a_{l_2}^{(2)}\lt\cdots\lt a_{l_m}^{(m)}(各巡回置換に含まれる最小元が最も右側にあり、それらは小さい順に並んでいる)という条件を付けると唯一通りに定まる。このときf(\sigma)

\begin{pmatrix}1&2&\cdots&l_1&l_1+1&\cdots&n\\a_1^{(1)}&a_2^{(1)}&\cdots&a_{l_1}^{(1)}&a_1^{(2)}&\cdots&a_{l_m}^{(m)}\end{pmatrix}

と定める。これは全単射である。実際、置換の表示を左から見て1が現れる所までを括弧で括り、次にそれより右側の最小元が現れる所までを括弧で括り…と繰り返すことで逆写像が構成できる。
あとはfが減少数kの置換を下降数kの置換に移すことを見ればよい。\sigmaの減少数は定義からa_i^{(j)}\gt a_{i+1}^{(j)}なる組(i,j)の総数に等しい。ここで作り方から常にa_{l_j}^{(j)}\lt a_1^{(j)}なので巡回置換の端どうしは考えなくてよいことに注意する。さらに常にa_{l_j}^{(j)}\lt a_1^{(j+1)}なので、この総数はf(\sigma)の下降数に等しい。\Box

S_nの元のうち下降数がkであるものの個数はEuler数と呼ばれており、様々な性質が知られています。それについてはまた改めて記事を書こうと思います。

このブログについて

はじめまして。飛鳥といいます。

このブログでは、「明日誰かに話したくなる数学の小ネタ」の数々を紹介していきたいと思っています。小ネタなので一つ一つの記事は短めですが、証明はきちんとつけるつもりです。

ブログ名は私が大好きな数列、Fibonacci数からとりました。Fibonacci数についての記事も沢山書きたいと思います。

またこのブログの記事は全て無断でリンクを貼っていただいて構いません。

楽しんでいただけたら幸いです。