フィボナッチ・フリーク

数学の小ネタ集。

Fibonacci Freak

ChompゲームとHilbertの基底定理

今回はChompというゲームに関する小ネタです.

Chompは石を使って2人で遊ぶゲームです.石をn\times mに並べます.プレイヤーは図のようにある1つの石を選んで,そこより右上にある石を全て取り去ります.これを交互に繰り返して,一番左下の石を取った方が負けです.

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実はChompは先手必勝であることを示すことができます(このブログで以前紹介した手法です。ぜひ考えてみてください)が,今回はその話ではなく,ゲームが有限の手数で終わるかどうかという点に着目します.

もちろんChompそのものは,有限個の石が一手ごとに減っていくわけなので,自明に有限手数で決着がつきます.

しかし,石が右と上方向に無限に続いているという設定にした「無限Chomp」を考えると話は難しくなります.果たして無限Chompは有限手数で決着がつくのでしょうか?

実は無限Chompは必ず有限の手数で終わることが証明できます.このことはもちろん初等的にも示せますが,今回は可換環論の定理であるHilbertの基底定理を使った証明を紹介したいと思います.

定理(Hilbertの基底定理).Noether環上の多項式環はNoether環である.特に\mathbb{C}[x_1,\dots,x_n]はNoether環である.

 

最も左下の石を0行目0列目として,a行目b列目にある石を(a,b)と呼び,多項式環の元x^ay^b\in \mathbb{C}[x,y]を対応させます.

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さらに盤面の状態にイデアルIを次のように対応させます.まず初めはI=(0)とし,プレイヤーが(a,b)をとったらII+(x^ay^b)に変化させます.すると常に次の関係が成り立つことがわかります:

(a,b)が盤面から取り除かれている\Leftrightarrowx^ay^b\in I.

さて,前述のように\mathbb{C}[x,y]はNoether環であり,先ほどの考察よりIは真に大きくなり続けるので,ゲームが終わらなければ矛盾します.よってゲームは有限手数で終わります!

この証明は石のマスが3次元,4次元方向にも並んで(つまり\mathbb{Z}^n_{\geq 0}上に石が並んでいる),取る時もa \in \mathbb{Z}^n_{\geq 0}を選んでa+\mathbb{Z}^n_{\geq 0}を取り去るという「高次元無限Chomp」に対しても適用できます.