フィボナッチ・フリーク

数学の小ネタ集。

Fibonacci Freak

【解決編】平面上の凸図形に含まれる多角形の面積

前回の記事で,次のような問題の解答を募集しました.

問題.平面上の凸図形Xに対し,「Xに含まれるn角形の面積の最大値をXの面積で割ったもの」をM_n(X)と書く.Xを動かしたとき,M_n(X)のとりうる値の最小値は何か?

 

fibonacci-freak.hatenablog.com

 

これについてある方からTwitterでリプライをいただき,なんとこの問題は

E. Sasという数学者により1939年に解かれていた

ことが判明しました!(昔の人,すごい!)

 

そこで,今回はその証明を紹介したいと思います.簡潔な証明なのですぐに終わります.

 

定理 (E.Sas, 1939).任意の凸図形Xに対しM_n(X)\geq \dfrac{n}{2\pi}\sin\dfrac{2\pi}{n}であり,Xが円のときに等号が成立する.

 

証明.Xに含まれる線分のうち距離が最大のものを1つとりABとする.問題の内容は相似で不変なのでABの長さが2であると仮定してよい.A=(-1,0), B=(1,0)となるように座標をとる.ABの最大性から,X-1\leq x\leq 1の範囲に入ることに注意する.

 

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\theta\in[0,\pi]に対し\{(x,y)\in X\mid x=\cos\theta\}におけるyの最大値をh(\theta)と定める.同様に\theta\in[\pi,2\pi]に対してはyの最小値をh(\theta)と定める.するとXの境界は

f(\theta):=(\cos\theta,h(\theta))

によりパラメータづけできる.このときXの面積は

\displaystyle X=\int_{\theta=0}^{2\pi}-h(\theta) dx(\theta)=\int_0^{2\pi}h(\theta)\sin\theta d\theta

となる.

ここでt\in[0,2\pi]を1つとり,t_k=t+\dfrac{2k\pi}{n}と定める.f(t), f(t_1), f(t_2),\dots,f(t_{n-1})を頂点とするn角形の面積をS(t)とすると,和積の公式より

\displaystyle \begin{align*}S(t)=\sum_{k=0}^{n-1} \dfrac{\cos t_k h(t_{k+1})-\cos t_{k+1}h(t_k)}{2}\end{align*}\\ \displaystyle =\sum_{k=0}^{n-1} \dfrac{(\cos t_{k-1} -\cos t_{k+1})h(t_k)}{2}\\ \displaystyle=\sum_{k=0}^{n-1} \sin t_k\sin\dfrac{2\pi}{n} h(t_k)

 

と表すことができる.よってtを無作為にとったときのS(t)の期待値は

\displaystyle \dfrac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}S(t)dt=\dfrac{n}{2\pi}\sin\dfrac{2\pi}{n}\int_0^{2\pi}h(\theta)\sin\theta d\theta=\dfrac{n}{2\pi}\sin\dfrac{2\pi}{n}\cdot X.

 

これはあるtが存在してS(t)\geq \dfrac{n}{2\pi}\sin\dfrac{2\pi}{n}\cdot Xとなることを示しており,主張は示された.\square

 

見事な証明とはこのことです.まるで芸術作品のような美しさを感じませんか?