フィボナッチ・フリーク

数学の小ネタ集。

Fibonacci Freak

不思議な確率論

※今回の内容は箱(@o_ccah)さんから教えていただきました。

 

問題です。

平面上に10個の点を書きます。このときどんな書き方をしても、交わらないいくつかの単位円板で全てを覆うことはできるでしょうか?

f:id:fibonacci_freak:20170930144028p:plain

いくつか具体的にやってみると(コインなどを使ってみましょう)、どうやらできそうだという感覚が得られます。しかし厳密な証明はそう簡単には得られません。任意の書き方について示さなければならない、というのは無謀にも思えます。

 

しかし、実はこの問題は確率論的手法を使うと鮮やかに解くことができます。確率論的手法とは、ランダムな試行を考え、確率や期待値を計算することで何かの存在を導くという手法です。つまり確率的なのは手法だけで、得られる結果は常に成り立つのです。以下にその不思議な解法を紹介します。

 

10点を固定し、これらを必ず覆うことができることを示します。まず単位円板を平面全体に最密に充填した図形を考えます。これをSとしましょう。

f:id:fibonacci_freak:20170930143943p:plain

次にSを平面上のランダムな場所に配置(平行移動)し、これをS'とします。平面全体の中からランダムに選ぶことは難しいですが、幸いSは周期的になっているので、1周期ぶんの有界な領域から一点選ぶことと同一視できます。

ここで10点のうちS'に含まれる点の個数の期待値を計算します。これは1点ずつそれぞれがS'に含まれる確率を10倍すれば求まります。Sが平面全体に占める割合を計算すると\dfrac{\pi}{2\sqrt3}=0.906\dotsとなるので、期待値は9.06\dots個となります。

どんな配置をしても10点のうち9点以下しか含まないと仮定すると、期待値は当然9以下になるはずです。しかし結果は9より真に大きくなっています!よって10点を含むようなS'の配置があることが示されました。

騙されたような気がしてしまいますが、これはもちろん正当な数学的証明です。

ちなみに何点までなら必ず覆えるかは未解決問題だそうです。現在知られている最良の評価は13\leq n\leq 45nは覆えない配置が存在する最小の点の個数)です。