フィボナッチ・フリーク

数学の小ネタ集。

Fibonacci Freak

痩せた集合・太った集合

私は痩せています。どのくらい痩せているかというと、アスパラぐらいです。

実は数学には「痩せた集合」という概念があって、私はだいぶ親近感を持っています。今日はその痩せた集合について書きたいと思います。

まずは痩せた集合の定義をしましょう。

定義. X位相空間Aをその部分集合とする。
(1) A稀薄であるとは、Aの閉包が内点を持たないことをいう。
(2) A痩せた集合(または第1類集合)であるとは、高々可算個の稀薄な集合の合併として表せることをいう。
(3) A太った集合(または第2類集合)であるとは、痩せた集合でないことをいう。

今回は位相空間と言ったら実数\mathbb{R}区間[0,1]などのことだと思っても差し支えありません。また太った集合というのはここだけのネーミングで、一般的ではありません。

例えばX=[0,1]とすると、A=\{\frac{1}{n}\mid n\in\mathbb{Z}_{\gt 0}\}\cup \{0\}は内点を持たない閉集合なので稀薄な集合で、とくに痩せた集合です。また[0,1]自身は太った集合になります。このことは次のBaireの範疇定理からわかります。

定理(Baireの範疇定理). 痩せた集合は内点を持たない。特に完備距離空間は(それ自身の部分集合として)太った集合である。

証明はいろんなところに書いてあるので省略します。

もう一つ痩せた集合の代表としてカントール集合が挙げられます。これは[0,1]から始めて「つながった区間を3等分して真ん中の開区間を取り除く」という操作を無限回繰り返して得られる集合です。開区間を取り除いているので出来上がる集合は閉集合になります。

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 真ん中を取り除くごとに連結成分1つ分の長さは\dfrac{1}{3}になるので、内点を持たない(区間を含まない)、つまり痩せた集合であることがわかります。また真ん中を取り除くごとに測度(長さの合計)は\dfrac{2}{3} になるので、カントール集合は測度0です。

 

さて、今回伝えたいのは「痩せた集合も結構すごい」という事実です。具体的には[0,1]の部分集合で、痩せた集合にもかかわらず正の測度を持つものが存在するのです!

それが「太ったカントール集合」です。「太った」と付いていますが、これは「カントール集合に比べたら太っている」という意味で、実態は痩せた集合です。

太ったカントール集合の構成は簡単です。まず区間[0,1]から始めて、中央から長さ\dfrac{1}{4}の開区間を取り除きます。次に残った2つの区間それぞれの中央から長さ\dfrac{1}{16}の開区間を取り除きます。次は\dfrac{1}{64}、その次は\dfrac{1}{256},\cdotsと、\dfrac{1}{4^n}の開区間を次々に取り除いてきます。これを無限回繰り返したとき残る集合が太ったカントール集合です。

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これも区間を取り除くごとに連結成分1つ分の長さが半分以下になるので、内点を持たず、痩せた集合であることがわかります。

太ったカントール集合の測度は

1-\dfrac{1}{4}-\dfrac{2}{16}-\dfrac{4}{64}-\cdots-\dfrac{2^n}{4^{n+1}}-\cdots\\=1-\left(\dfrac{1}{4}+\dfrac{1}{8}+\dfrac{1}{16}+\cdots\right)\\=\dfrac{1}{2}

となり、確かに正の測度\dfrac{1}{2}を持ちます!人は見かけで判断してはいけないのです。私も実は正の測度を持っているかもしれません。

 

さらに、太った集合にもかかわらず測度が0の雑魚集合も存在します。これは次のように作ります。

まず太ったカントール集合Sを用意します。Sにはたくさんの「開区間の穴」が空いていますが、その全てに「Sを相似縮小したもの」を詰め込みます。

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こうして得られたものをS_1とします。さらにS_1の全ての穴にSを詰め込んだものをS_2とし、S_3,S_4,\cdotsと順に気持ち悪い集合を作っていきます。そして最後に

\displaystyle{T=\bigcup_{n=1}^\infty S_n}

とします。Sを詰め込むたびに空白の部分の測度は半分ずつになるので、Tの測度は1になります。また各S_nは稀薄な集合なのでTは痩せた集合です。するとTの補集合は太った集合で*1、かつ測度0になります。

 

如何でしたでしょうか。皆さんも是非自分好みの気持ち悪い例を作って遊んでみてください。

*1:補集合も痩せているとすると[0,1]も痩せていることになりBaireの範疇定理に矛盾します。